かんさい熱視線「あるタカラジェンヌの死 宝塚歌劇団で何が」を見た感想

2023年9月30日、一人のタカラジェンヌ(Aさん)が自ら命を絶ちました。

Aさんの死を受け、先日、NHK「かんさい熱視線」で「あるタカラジェンヌの死 宝塚歌劇団で何が」という番組が放送されました。

100人を超える劇団関係者に取材を申し込んだところ、多くの関係者が多くが口をつぐむ中

「宝塚の内部で一体何が起こっているのが 実情を知ってほしい」

と現役の劇団員がインタビューに応じた様子が放送されていました。

今回は宝塚ファン歴2年の私が番組を見た感想を書いていきます。

インタビューに応じた現役タカラジェンヌ

インタビューに応じた生徒さんはスカート姿で手袋を付けて登場しました。

椅子に座り、下半身のみがカメラに映る状態でインタビューに答えていました。

匿名で音声も変えての出演だったので、所属する組や学年、名前、男役か娘役かなど彼女の素性を知ることは一切できない状態でした。

今回の事件後、現役の生徒さんがマスコミのインタビューに答えるのは初めてだと思います。

出演に当たっては、彼女の中で大きな葛藤があったでしょう。

おそらくは劇団側の了解も得ていない状態だと思います。

そんな中、

「劇団の現状を知ってほしい」

と勇気を振り絞って出演した彼女の声に

劇団側は真摯に耳を傾けてほしいと思いました。


パワハラの件

番組では問題となっているパワハラについて具体的な内容については触れず、遺族側と劇団側、双方の主張を紹介し、食い違いがあることだけを紹介していました。

遺族側

・「過重労働」「パワハラ」が原因

・歌劇団に謝罪と被害の補償を求める

劇団側

・長時間の活動を認める

・パワハラについては確認できなかった


亡くなった生徒について

インタビューに応じた生徒さんは亡くなったAさんに対して、次のように答えていました。

同じ宝塚の生徒として

死を選んでしまったということを

本当に悲しいし つらいし

助けてあげられなかったことが

とても悔しい気持ちいっぱいです


彼女はとても優しくて

笑顔が素敵で

人一倍真面目で、でも不器用な所もあるけれど

責任をもって仕事をしていたと聞いています


宝塚歌劇団の過重労働について

番組では、劇団員の日々の活動内容についても紹介されていました。

・劇団員は公演に向けて1ヶ月ほどの準備期間がある

・公式の稽古のほか、それを補完したり自らの芸を磨いたりするための自主的な稽古も行われる


他にも遺族側が公表したAさんが亡くなるまでの1ヶ月間の主な一日のスケジュールや時間外労働についても紹介されていました。

・公式の稽古が午後1時から10時ころまでの9時間

・午前中と深夜に6時間程度の自主的な稽古

・帰宅後も書面の作成などを行う

・寝るのは午前3時ころになる日が続いた

・1ヶ月間実質的な休日が1日もなく、時間外労働は250時間を超えた


Aさんが亡くなるまでの1ヶ月間の主な一日のスケジュール


午後1時~午後10時 全体稽古

午後10時~午前0時 下級生のみの稽古

午前0時~午前0時半 帰宅

午前0時半~午前3時 書面作成などの業務

午前3時~午前6時 睡眠

午前6時~午前8時 朝食等

午前8時 自宅出

午前8時半 劇団入り

午前9時~午後1時 下級生のみの稽古


私たちに素敵な舞台を届けてくれる裏で、生徒さんたちがこれほどハードスケジュールをこなしていたとは・・・

しかも新人公演に向けて連日、深夜0時まで稽古をされていたなんて

本当に頭が下がります。


インタビューに応じた現役の生徒さんも長時間に及ぶ活動の過酷さについて次のように語っていました。

ご飯も食べず寝落ちしてしまったり

すぐシャワーで済ませて

毎日とりあえず清潔面を保つためにやる

最低ラインのことをするみたいな生活を送るときもありました

長時間活動の背景にあるのは

下級生の指導など自らの稽古以外に費やす時間が多いため

とも答えています。

舞台上ではすごくうれしい気持ちになりますが

裏に入った途端にすごく怖い気持ち

いろんなルールがあるので

それをしなければいけないという

上級生の方々の指導だったり

下級生への指導だったり

1日の反省会を行ったりすること

やるべきことが芸事以外であることが

苦痛に感じることが多いので


これを乗り越えない限り舞台に上がれないよとか

そういったことに自分も洗脳されていたというか

もちろん自分もそういう気持ちもあったのですが

言い聞かせてやっていたという感じです


劇団側は、長時間に及ぶ劇団員の活動とAさんの自死について

「長時間の活動などで強い心的負荷がかかっていた可能性は否定できない」

とし

「安全配慮義務を十分に果たしていなかった」

としています。


「長の期」について

番組では新人公演を取りまとめる入団7年目「長の期」についても紹介されていました。

歌劇団では入団6年目以降の劇団員とは業務委託契約を結んでいます。

歌劇団側は公演と公式の稽古のみを業務時間として記録、それ以外は活動管理していなかったといいます

さらにこの現役の劇団員が指摘したのが、指導の仕組みです

7年目以下の劇団員のうち最年長が「長の期」と呼ばれ下級生を取りまとめる役割を担います。

本公演の演技指導に加え、下級生だけが出演する公演の準備などもしなければなりません。

長の期は通常5人程度ですが、亡くなった女性が所属していた宙組は退団などに伴い二人になっていました。

かんさい熱視線「あるタカラジェンヌの死 宝塚歌劇団で何が...

インタビューに応じた生徒さんも「長の期」のハードさについて次のように語っていました。

演出部がしなければいけないような仕事だったり

衣装課がしなければいけないような仕事をすべて

新人公演の「長の期」という人たちがしていて

睡眠時間を削って朝の4時とか本当に寝ずに次の日公演に行ってしまう経験があったという人もいます

インタビューに応じた生徒さんも、過酷な日々の中、自らも余裕を失っていく環境では人を傷つけかねないと感じていたようです。

優しく教えてあげたらいいものを

余裕がないと下の子に厳しく傷つくような言い方をしてしまったり

でも自分も上の人にされてきているし

下の人もそれを経験するべきだと思ってしまって

おかしいはずなのに

見過ごして 見て見ぬふりしてきて

それがなぜか伝統として

ずっと続いてきているのではないかと思います

私たちだって仕事が忙しく、連日残業や休日出勤が続けば、殺伐とした雰囲気になりますよね。

部下や後輩に丁寧に教えてあげたいと思っても、そうした状況が続けば、きつく当たってしまうこともあるでしょう。

たぶん、それと同じだと思います。

演出や衣装スタッフを増やし生徒さんの芸事以外の負担を減らす、余裕のあるスケジュールを組むなどしないと、根本的な解決にはならないのではないでしょうか?


数年前に退団した元劇団員の証言

番組では、亡くなったAさんと同年代で数年前に退団した女性もインタビューに応じていました。

(元劇団員の証言)

(私は)ひとつのことが原因というより寝不足とか環境とかの問題で

袖から大階段に上がっていく瞬間に

「あ、ここから飛び降りたいな」

とか

ふいにベランダに出たときもありましたし

私自身も苦しかったし

そういう環境なので

あ、本当に起こってしまった


冷静に今考えると

ただ単に見えている世界が狭すぎたとしか言いようがない

亡くなったAさん以外にも、ふと自ら命を絶とうと思うジェンヌさんがいるのが宝塚歌劇団の現状のようです。

生徒さんたちが安心してお稽古や活動ができる環境に変わらない限り、第2のAさんのような犠牲者がでる可能性は残されたままと言えるでしょう。


業務委託契約について

宝塚歌劇団では、入団5年目までの生徒さんは阪急電鉄の社員として固定給が支払われていますが、6年目からは劇団と直接、業務委託契約(タレント契約)を結びます。

亡くなった当時、研究科7年だったAさんもこの契約を結んでいました。

番組では、業務委託契約の中身についても一部紹介されていました。

歌劇団の業務委託契約(一部抜粋)

・歌劇団が決定した組所属・出演作品・配役・出演劇場・出演期間などについて一切、方針に従わなければならない

・歌劇団の定めた稽古に参加し、演出家などの指示に従わなければならない


内容をみると生徒さんにとって、かなり不利な条件となっているように感じました。

遺族側も劇団と生徒との業務委託契約は、実質的には労働契約だと主張しています。


劇団の経営方針の変化

番組では、劇団側の経営方針の変化についても紹介していました。

1990年代以降、劇団側がより収益性を求めるように変化していったというものです。

90年代以降、株主が長期的な意義よりも短期的な利益を求めるようになったことが、宝塚の舞台作りにも影響を与えていると大学教授が指摘していました。

このことについて長年、宝塚の舞台作りに関わった人物の意見が紹介されていました。

目先の利潤追求の為に、皆が疲弊しているという事実を、会社側が、見て見ぬふりをしいていた。

109年続いた日本が誇る舞台芸術でもあり、その伝統を未来に繋いでいくためのビジョンなしでは運営できないはずです。

他にも80年代に在籍した元劇団員もインタビューに応じていました。

昔は収入のことよりも作品とか”宝塚ブランド”が保たれるかどうかという観点で公演計画や経営計画を練ってくださっていた。

「疲れているようなら休ませよう」

とか現場の目をよく見ていたんですね。


宙組の新設

1998年、宙組が新設されました。

従来の4組から5組にすることで公演回数を増やすことができます。

その結果、当時満席が続いていた東京宝塚劇場では

年間310回だった公演を1.5倍の450回まで増やすことができました。


しかし、劇団員の総数は変えずに組を増やしたため

一組当たりの生徒数は20人ほど減少。

制作スタッフの数も十分ではなかったそうです。


宝塚の舞台作りに関わった人物の手紙には、次のように綴られていました。

(劇団員は)やることが増えて稽古が追いつかない

作品数は増えているが制作スタッフは足りていないので

自転車操業で休みなしに働き続ける状態になっています。

安心して納得して働ける環境の整備を放置してきたことが大きな問題です


届かない生徒の声

こうした状況に対し、劇団員たちが各組のプロデューサーに改善を要望することもありましたが、受け入れられることはなかったそうです。

(現役の劇団員)

何かを伝えても何も改善してくれない

生徒のことに何か口を挟むのではなく丸投げ状態で

「伝えても意味がないんだ」

と思い、無力だなと思いました。


現役の劇団員は唯一無二の宝塚の舞台が何によって築かれたものなのか

運営側に見つめ直してほしいといいます。

(現役の劇団員)

私たちは舞台人だけどひとりの人間だし

夢を届けるとは言っても 自分はつらい気持ち

悲しい気持ちだってあるし きついって思うときもあるし

ロボットのように扱われているような感覚にもなるので

まずは人の心を大切にしてほしい

今こんなふうになってしまったけど

この「宝塚歌劇はすばらしい」と思ってもらえるような環境を作るべきだと思います。


まとめ

番組では劇団側と亡くなった生徒側、双方の意見を紹介しながら全体としては、劇団側の過重労働が問題とするような内容でした。

劇団としても株式会社である以上、株主のために利益追求を求めるのは理解できますが、その結果、全国ツアーなど公演数を増やし、生徒さんたちには休暇もほとんどない状態が続いています。

生徒さんたちが疲れ切った状態で舞台に立つのは、本当になんとかしてほしいと思います。

より良い舞台のためには、生徒さんに東京公演の後、2週間ほど休暇を与えてもいいんじゃないかな?

あとは公演までの準備期間も長く取り、余裕を持ってお稽古ができるようにすること。

たぶん、Aさんが亡くなったことについても、宙組のみなさんが余裕のない状態まで追い詰められていたことが原因でしょう。

劇団側には、生徒さんたちが安心して舞台に立てる環境づくりに真剣に取り組んでほしいと思います。

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